作品届とは何か

自分で作った曲を配信したりライブで演奏したりすると、そのたびに使用料が発生します。この使用料を実際に受け取るためには、JASRACに「この曲は自分が作った」と申告する手続きが必要です。それが作品届です。

ここで注意したいのは、作品届を出せるのはJASRACと著作権管理委託契約(信託契約)を結んだ人だけという点です。信託契約を結んでいない人がいきなり作品届を提出することはできません。つまり手続きの順序としては、まず信託契約を結び、そのうえで曲ごとに作品届を出す、という流れになります。

弾き語りやバンド活動、ボカロ曲の投稿、DTMでの制作など、活動の形はさまざまですが、自分の曲がJASRACの管理対象になるかどうかは、この信託契約と作品届の有無で決まります。CDやサブスクの売上とは別に、演奏権や録音権といった著作権由来の使用料を受け取りたい場合、この手続きを避けて通ることはできません。

信託契約を結ぶまでの流れ

作品届の前提となる信託契約は、個人クリエイターの場合オンラインで申し込めるとされています。氏名・住所・口座情報・代表曲などを入力し、eKYC(オンラインでの本人確認)を行ったうえで、運転免許証やマイナンバーカードといった本人確認書類を提出する流れです。その後JASRACの担当者から連絡が入り、契約手続きが進みます。

申込みの受付が完了してから契約が成立するまでには、一定の日数がかかるとされています。急いで申し込んでもすぐに反映されるわけではないため、リリーススケジュールとは別軸で早めに動いておくのが安全です。実際にどれくらいの期間を見ておくべきかは、契約時にJASRACへ直接確認するのが確実です。

信託契約には前提条件もあります。過去に、配信・カラオケ・コンサートといった複数の利用形態のいずれかで、自分の曲が第三者に利用された実績が必要とされています。つまり「まだ誰にも聴かれていない曲を書いただけ」の段階では契約できず、何らかの形で世に出て使われた実績を積んでから申し込む、という順番になります。対象となる利用形態の具体的な範囲や件数の要件については、申込み前にJASRACの案内で確認しておくとよいでしょう。

配信リリースやライブでの演奏、カラオケ配信など、思っている以上に多様な利用形態が対象に含まれているとされているため、自主制作でSpotifyやYouTubeに曲を出している人でも条件を満たしているケースは少なくないようです。逆に、まだ発表前の曲しかない人は、先に発表実績を作ることが信託契約への第一歩になります。

なお、信託契約自体にかかる費用や管理手数料の料率については、時期によって扱いが変わることもあるため、本記事では具体的な金額には触れません。正確な数字が必要な場合はJASRACへ直接確認することをおすすめします。

信託契約と会員登録は別物

ここで混同しやすいのが、信託契約と「会員」になることの違いです。信託契約は著作権の管理をJASRACに任せるための契約であり、これを結んだ人は「信託者」と呼ばれます。一方で「会員」は、信託者の中でさらに任意で加入するステータスで、会員になるかどうかは自由です。

会員には準会員と正会員があり、それぞれに入会金・年会費が設定されているとされています。具体的な金額は区分によって異なり、また改定されることもあるため、正確な数字はJASRACの公式案内で確認するのが確実です。

準会員でも、使用料の徴収・分配サービスやサポート窓口は利用できるとされています。正会員になると、これに加えて社員総会での議決権、役員の選任・被選任資格、法律相談や税務相談、保養施設といった福利厚生も利用できるようになるようです。

個人で作曲・作詞をしている人の多くは、信託契約だけを結び、会員にはならない、あるいは準会員にとどまるという選択をすることが多いようです。福利厚生や議決権よりも、まず使用料をきちんと受け取れる状態を作ることが優先だからです。会員登録は信託契約とセットで自動的に発生するものではなく、必要に応じて別途検討する位置づけと考えておくとよいでしょう。

作品届に何を書くのか

作品届には著作者・承継者用と音楽出版者用の2種類のフォームがあり、複写式で複数部提出する形式になっています。個人クリエイターが主に使うのは著作者用のフォームです。

著作者用フォームに記載する主な項目は次の通りです。

  • 作品コード、ISWC(国際標準musical work コード)
  • 作品名(フリガナ・副題)
  • 作詞者・作曲者名(フリガナ、権利者コード)、補作詞・補作曲・公表時編曲の別
  • 音楽出版者名
  • 公表形態(出版・放送・演奏・レコードなど)、演奏時間、公表年月
  • 最初のレコード発売日・製品番号・レコード会社・歌手名
  • 楽曲(メロディー冒頭)・歌詞の記入欄
  • 広告や映画・放送での利用に関する備考欄
  • 届出人の署名・捺印

音楽出版者用フォームには、これに加えて「取分」欄があります。演奏権・録音権・貸与権など、権利の種類ごとに分配率を記入する欄です。著作者用フォームにこの取分欄がないのは、音楽出版者が関与していない作品については、取分がJASRACの著作物使用料分配規程によって自動的に決まる仕組みになっているためです。

個人で作詞・作曲を完結させ、出版社を介さずに活動している人であれば、この取分欄を自分で埋める必要はありません。逆に言えば、レーベルや出版社と契約を結んでいる場合は、その契約内容が取分の記載に反映されることになるため、契約書の内容を事前にきちんと確認しておく必要があります。

作品届の出し方

作品届の提出方法には、紙の書類を使う方法と、オンラインで手続きする方法があります。

紙の作品届は、複写式で複数部を用意する構成で、届出人の署名・捺印が必要です。ただし、具体的な郵送先住所やFAX番号など細かい提出方法については、時期によって変わる可能性があるため、実際に紙で提出する場合は、JASRACの窓口やサポートに直接問い合わせて、最新の提出先を確認するのが確実です。

オンラインでの手続きについても、訂正届やタイアップ届など各種変更届が受付されるようになっているとされています。ただし、これが新規の作品届そのものまでカバーしているのか、それとも訂正・変更系の書類に限られるのかは、契約時にJASRACへ確認しておくのが確実です。新規の曲を届け出る際にオンライン受付が使えるかどうかも、あわせて聞いておくとよいでしょう。

もうひとつの選択肢として、楽曲管理ツール「KENDRIX」を使う方法があります。JASRACの信託契約者であれば、KENDRIXの法人向けアカウントで、あらかじめ登録した楽曲情報をもとに作品届を作成し、そのままオンラインでJASRACに提出できるとされています。曲数が多い人や、複数のリリースを継続的に管理したい人にとっては、紙の書類を都度用意するより効率的な選択肢になり得ます。ただし、利用条件や費用体系については、利用を検討する時点で最新の情報を確認する必要があります。

いずれの方法を選ぶにせよ、初めて作品届を出す際は情報の記入漏れや権利者コードの誤りが起きやすい部分なので、契約時にJASRACの担当者から案内される記入例を参照しながら進めることをおすすめします。

登録することで何が変わるのか

信託契約を結び、作品届を提出しておくことで、個人クリエイターの活動には具体的にどのような変化があるのでしょうか。

まず大きいのは、使用料が直接自分に支払われるようになる点です。信託者になると、演奏権などの使用料は出版社を経由せず、JASRACから著作者本人へ直接支払われる仕組みになっています。自主制作で活動している人にとっては、収益の流れがシンプルになるという意味があります。

次に、海外での利用分も対象になる点です。自分の曲が海外で配信されたり演奏されたりした場合の使用料も、JASRACを通じて受け取れる仕組みになっているとされています。近年は国内向けに作った曲が海外のプラットフォームで再生されるケースも珍しくないため、この点は地味に効いてきます。

また、管理範囲を自分で限定できる点も見逃せません。たとえば制作を依頼した相手やタイアップ先など、特定の利用者に対してはJASRACの管理が及ばないようにする、といった調整が可能とされています。すべてを一律にJASRACに預けるのではなく、部分的にコントロールを残せるということです。

自己使用についても一定の配慮があります。著作権をJASRACに管理委託していても、一定範囲内であれば、自分の作品を自分で使う際に使用料を払わずに済む仕組みになっているようです。ライブで自分の曲を演奏する、SNSで自分の曲を使った動画を投稿するといった場面で、いちいち使用料の心配をしなくていいのは実務上ありがたい部分です。

使用料の分配は、年に複数回のタイミングでまとめて行われる仕組みになっているとされています。毎月まとまった金額が振り込まれるわけではなく、一定の周期ごとの分配になる点は、資金繰りを考えるうえで頭に入れておくとよいでしょう。曲を出してから実際に手元に使用料が届くまでにはタイムラグがあるため、リリース直後の収益として即座に当てにできるものではない、という前提で活動計画を立てるのが現実的です。分配時期の詳細はJASRACの公式案内で確認してください。

個人クリエイターとしての向き合い方

作品届と信託契約は、一度きりの手続きではなく、曲を発表するたびに繰り返す作業になります。最初の1曲を登録するまでのハードルはやや高く感じられるかもしれませんが、仕組みが分かってしまえば、2曲目以降は同じ流れの繰り返しです。特に継続的に曲を発表していく予定がある人は、早い段階で信託契約を済ませておくことで、後から使用料を遡って請求するような手間を避けられます。

一方で、すべての活動がJASRACの管理を必要とするわけではありません。同人音楽イベントでの頒布や、特定のコミュニティ内での利用など、管理の必要性や利用実態は活動のスタイルによって異なります。自分の音楽活動が今後どういう広がり方をしそうかを考えたうえで、信託契約のタイミングを判断するのがよいと思います。

こうした著作権まわりの手続きや、リリースした楽曲の情報整理は、活動を続けるほど管理項目が増えていく分野でもあります。マイグル2のような制作管理のためのサービスも、こうした情報を曲ごとに整理しておく場所のひとつとして活用できます。