フリーランス新法とは何を定めた法律なのか

「フリーランス新法」の正式名称は、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律です。制定・施行の経緯や条文は、e-Gov法令検索や、所管する公正取引委員会のフリーランス法特設ページで確認できます。取引の適正化に関する部分は公正取引委員会と中小企業庁が、就業環境の整備に関する部分は厚生労働省が所管しています。

ボカロP、DTMer、歌い手、バンドなど、個人で楽曲制作や音楽活動を行い、企業やレーベル、他の個人事業主から仕事を受けている人であれば、ほぼ確実にこの法律の保護対象に入ります。作業や納品の実態が「業務委託」の形をとっているなら、契約書に「業務委託契約」と明記されていなくても対象になり得ます。

この法律ができた背景には、フリーランスという働き方をする人が増える一方で、発注側との力関係の差から、報酬の未払いや一方的な条件変更、ハラスメントといった問題が起きやすいという課題がありました。フリーランス新法は、そうした立場の弱さを制度的にカバーするために作られています。

音楽活動をしていると「発注書はメールでのやり取りだけ」「金額は口頭で決めた」というケースは珍しくありません。この法律を知っておくことで、そうした曖昧な取引がどこまで許容されるのか、逆に何を求めてよいのかの判断基準を持てるようになります。

似た名前の法律との違いを整理しておく

フリーランス新法について調べていると、「下請法」や、下請法を改正・拡充する形で議論されている法律の名称を目にすることがあります。名前が似ているため混同しやすいのですが、対象や枠組みが異なる別の法律です。

  • フリーランス新法は、個人や一人法人(従業員を使っていない事業者)を「特定受託事業者」として保護する、新設の法律です
  • 下請法は、資本金の規模を基準に発注側・受注側を区分し、事業者間の取引を対象とする法律で、フリーランス新法とは制定の経緯も対象の考え方も異なります
  • 下請法をめぐる制度は改正の動きがあり、対象拡大や施行時期など詳細が変わる可能性があるため、正確な内容は中小企業庁や公正取引委員会の公表情報で確認するのが確実です

個人のクリエイターが自分の仕事にどの法律が関係するかを考える際は、まずフリーランス新法を基準に考えれば問題ありません。資本金の大きい企業同士がさらに絡むような複雑な取引は、通常の楽曲制作の受発注ではあまり想定しなくてよいでしょう。

自分が「保護される側」に当てはまるかの確認

フリーランス新法でいう保護対象は、特定受託事業者と呼ばれます。定義はシンプルで、次のいずれかに当てはまる場合です。

  • 従業員を使用していない個人
  • 一人で代表を務め、他に役員がいない法人

つまり、個人で活動しているボカロPや歌い手、あるいは一人法人化しているクリエイターは、基本的にこの定義に入ります。バンド活動の場合は少し注意が必要で、バンドとしてではなく、メンバー個人がそれぞれ受注者として契約している形であれば、個々のメンバーが特定受託事業者に該当します。

発注する側は特定業務委託事業者と呼ばれ、従業員を使用している個人事業主、または役員が複数いる法人が該当します。資本金の額による下限はありません。つまり、小規模な音楽制作会社やレーベルであっても、従業員を雇っていれば発注者としての義務を負うことになります。

自分が仕事を受ける相手が「一人社長で従業員なし」の会社なのか、「従業員を雇っている」会社なのかによって、この法律の適用があるかどうかが変わってくる点は覚えておく価値があります。詳しい定義や具体例は、公正取引委員会のフリーランス法ガイドブックにまとめられています。

発注者に課される義務の全体像

フリーランス新法は、委託期間の長さに応じて段階的に義務が増える構成になっています。整理すると次のようになります。

すべての業務委託に共通する義務

委託期間の長さを問わず、発注者にはまず取引条件の明示義務があります。書面か、メールなどの電磁的方法で、業務の内容や報酬額、支払期日といった条件を明示することが求められます。

これまで「口約束で発注され、詳細な条件は後から個別に聞くしかない」という経験をした人にとっては、この義務の存在自体が交渉のよりどころになります。明示を求めても応じてもらえない場合、それ自体が法律違反の状態にあるということです。

1ヶ月以上の業務委託にかかる義務

委託期間が1ヶ月以上に及ぶ場合、次の行為が禁止行為として明記されています。

  1. 受領拒否(納品物の受け取りを正当な理由なく拒否すること)
  2. 報酬の減額
  3. 不当な返品
  4. 買いたたき(通常の相場より著しく低い報酬を一方的に定めること)
  5. 購入・利用強制(発注者の指定する物品やサービスの購入を強制すること)
  6. 不当な経済上の利益提供要求(協賛金や金銭の負担を一方的に求めること)
  7. 不当な給付内容の変更・やり直しの要求

さらに、報酬の支払期日についても定めがあり、給付を受領した日からできる限り短い期間内に支払うことが求められます。発注者がさらに別の事業者から仕事を請けている「再委託」の構造になっている場合は、別の基準が適用されます。支払期日の具体的な日数の考え方は、公正取引委員会のフリーランス法特設ページに掲載されている解説で確認してください。

楽曲提供やアレンジ、ミックス・マスタリングの外注などで「納品してから何ヶ月も入金がない」という状況に心当たりがある人は、支払期日のルールに照らして状況を見直す価値があります。

6ヶ月以上の業務委託にかかる義務

継続的な契約関係が6ヶ月以上続く場合には、さらに次の義務が加わります。

  • 育児や介護など、私生活との両立に対する配慮義務
  • ハラスメント対策として、相談体制の整備や方針の明確化
  • 中途解除や契約を更新しない場合の、事前予告と理由の開示義務

継続的にレギュラーで案件を受けているクリエイターにとっては、「ある日突然契約を切られて理由も説明されない」という事態を防ぐ規定として重要です。予告期間のルールがあることで、次の仕事を探す猶予期間が制度的に保証される形になります。予告日数の詳細は、上記の公正取引委員会のページで確認できます。

違反した発注者はどうなるのか

フリーランス新法の執行は、いきなり罰則という形にはならず、段階を踏んで進みます。

助言、指導、勧告、命令、そして企業名の公表という順序で行政指導が進み、事業者が改善に応じない場合に次の段階へ進む仕組みです。罰則が科されるのは、命令に違反した場合や、立入検査を拒否した場合に限られます。具体的な罰則の内容は法律の条文に定められており、e-Gov法令検索で該当条項を確認できます。禁止行為そのものに対して直接罰則が科されるわけではない点は、実務上おさえておくべきポイントです。

また、違反した個人だけでなく法人自体も処罰の対象となる、両罰規定が設けられています。

公正取引委員会はこの法律の運用状況について、是正指導などの実績を継続的に公表しています。最新の執行状況は公正取引委員会の報道発表資料で確認できるので、気になる人はあわせて見ておくとよいでしょう。

個人クリエイターが実務でできる対応

法律の内容を知っているだけでは実際のトラブル防止にはつながりません。日々の仕事の中でどう活かすかを考えてみます。

発注内容を書面やメールで残す

取引条件の明示義務がある以上、口頭のみでのやり取りに対しては「書面かメールでの明示をお願いします」と伝えることが、法律を根拠にした正当な要求になります。LINEやチャットツールでのやり取りであっても、後から条件を確認できる記録として残しておくことが基本です。

支払期日を契約前に確認する

報酬の支払期日について、できる限り短い期間内に支払うべきという基準があることを知っていれば、契約時に支払サイトを確認する際の判断材料になります。極端に長い支払サイトを提示された場合、それが妥当な理由に基づくものか確認する価値があります。

継続案件では契約終了時の扱いを事前に確認する

6ヶ月以上続く見込みのある継続案件では、契約解除の際の予告期間や理由開示について、契約開始時点で確認しておくと安心です。長期の仕事ほど、生活設計への影響も大きくなるため、この点は早めに押さえておきたいところです。

買いたたきに当たりそうな条件は記録しておく

「相場よりかなり低い金額を一方的に提示される」という状況に遭遇した場合、その提示内容とやり取りの経緯を記録しておくことが後々の相談や対応につながります。感覚的に「これはおかしい」と感じた条件ほど、その場でのメモや保存を習慣にしておくと安心です。

迷ったときの相談窓口を知っておく

トラブルが実際に起きたときや、契約内容に疑問を感じたときに一人で抱え込む必要はありません。公正取引委員会や中小企業庁は、フリーランス向けの相談窓口を設けています。契約書を交わす前の段階でも、疑問点を確認できる窓口があることを知っておくと、いざというときに動きやすくなります。

まとめとして知っておきたい心構え

フリーランス新法は、個人で音楽活動をする人にとって、発注者との関係を対等に近づけるための制度的な土台です。ただし、法律があるからといって自動的にトラブルが防げるわけではなく、自分がこの法律の対象であることを理解し、必要な場面で条件明示や支払期日について発言できることが実務上の意味を持ちます。

法律の名称や条文は難しく感じられても、押さえるべき要点は「取引条件を明示してもらう」「支払期日を確認する」「おかしいと感じた条件は記録する」といった、日々の仕事の中でできる行動に落とし込めます。まずはこの3点を意識するところから始めてみてください。

案件が増えてくると、どの相手とどんな条件を約束したか、入金状況がどうなっているかを頭の中だけで管理するのは難しくなっていきます。マイグル2では、そうした楽曲制作にまつわる案件のやり取りを記録として残せるようにしているので、この記事で紹介したような確認や記録の習慣づけに、あわせて役立ててもらえればと思います。