確定申告はいつから必要になるのか
音楽活動で得たお金があっても、すぐに確定申告が必要になるわけではありません。まず押さえておきたいのは、会社員として給与をもらいながら音楽活動をしている人と、音楽活動そのもので生計を立てている人とで、考え方が変わるという点です。
給与所得者が副業として音楽活動をしている場合、その副業の「所得」が年間20万円を超えると、所得税の確定申告が必要になります。ここで注意したいのは、20万円という基準が「収入」ではなく「所得」、つまり収入から経費を差し引いた利益で判定される点です。ライブのギャラや音源の売上が30万円あっても、機材代やスタジオ代などの経費が15万円かかっていれば、所得は15万円となり、申告は不要ということになります。
一方で、所得税の申告が不要な20万円以下の場合でも、住民税の申告は別に必要になる場合があります。20万円という基準はあくまで所得税の特例であり、住民税には適用されないという整理が一般的です。副業の所得がわずかでもあれば、お住まいの市区町村に住民税の申告を行う必要が生じることがあります。これは国税庁ではなく市区町村の窓口の管轄になるため、確定申告をしない年でも、一度お住まいの自治体に確認しておくと安心です。
会社員ではなく、音楽活動そのものを本業、あるいはそれに近い形で行っている場合は、副業の20万円ルールは関係なく、所得の額にかかわらず基本的に確定申告の対象になります。専業で活動している方、あるいは音楽活動の比重が大きい方は、金額の大小を気にする前に、まず申告が必要な立場だと考えておくのが安全です。
申告の時期
確定申告は、前年1月1日から12月31日までの所得について、翌年に申告を行う制度です。令和7年分(2025年分)の申告は、相談・申告書の受付が令和8年(2026年)2月16日から3月16日までの期間に行われます。個人事業者の消費税の申告・納付についても、期限が別途定められています。期間は年によって多少前後することがあるため、申告の年が近づいたら、国税庁の案内で最新の期間を確認してください。
事業所得か雑所得か
確定申告をする際、音楽活動による所得をどの所得区分に分類するかは、多くの人が迷うところです。主な選択肢は「事業所得」と「雑所得」の2つです。
事業所得と雑所得のどちらに該当するかは、条文上明確な金額の線引きがあるわけではなく、その活動が社会通念上、営利性・継続性・企画遂行性を持って行われているかどうかで判断されます。趣味の延長として不定期にライブ収入を得ている程度なのか、継続的な計画のもとに音楽活動を営んでいるのかによって、実態が変わってくるということです。
判断のひとつの手がかりとして、帳簿書類をきちんと保存しているかどうかが挙げられます。収入や経費を帳簿に記録し、保存している実態があれば、事業所得として扱われやすくなります。逆に、記帳の実態がなく、家計簿のような簡単な管理しかしていない場合は、事業性を示す材料が乏しくなります。
なお、帳簿書類の保存要件を満たさない場合であっても、その所得が300万円を超え、かつ業務と認めるべき事実がある場合には、雑所得ではなく事業所得寄りに扱われうるという例外的な整理も存在します。ただし、この基準は「所得300万円以下なら自動的に雑所得」という単純な話ではなく、条件はやや複雑です。金額だけで判断せず、記帳の有無や活動の実態を踏まえて、迷う場合は税務署や税理士に相談することをおすすめします。
事業所得と雑所得では、青色申告の特典を使えるかどうかや、損失が出た場合に他の所得と相殺できるかどうかなど、扱いに違いが出てきます。とはいえ、多くのアマチュア・セミプロの音楽活動者にとって、最初のうちは雑所得として申告されるケースも少なくありません。活動の規模が大きくなり、継続的な収入の柱になってきた段階で、事業所得としての届出や記帳体制を検討する、という順番で考えるとよいでしょう。
経費にできるものの考え方
確定申告で所得を正しく計算するには、経費を漏れなく計上することが欠かせません。経費として一般的に認められやすいとされているものには、次のようなものがあります。
| 経費の例 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 楽器・機材 | ギター、キーボード、マイク、オーディオインターフェースなど |
| ソフトウェア | DAW、音源プラグイン、譜面作成ソフトなど |
| 制作用のパソコン | 楽曲制作・動画編集に使うPC本体や周辺機器 |
| スタジオ・練習代 | レコーディングスタジオ、リハーサルスタジオの利用料 |
| ライブ関連費用 | ライブハウスのレンタル料、機材の運搬費 |
| 衣装・小道具 | ライブやMVで使う衣装代 |
| 制作・プレス費用 | 自主制作CDの原盤制作費、プレス代、外注のマスタリング費用など |
| 交通費 | ライブや打ち合わせのための移動費 |
| 打ち合わせの飲食費 | 共作者との打ち合わせにかかった費用(按分の考え方に注意) |
経費として計上できるかどうかを考えるときの基本は、「その支出が、音楽活動による収入を得るために必要だったか」という関係性です。ギターや機材は活動に直結する支出として説明しやすい一方、私生活と活動の両方で使うもの、たとえばパソコンやスマートフォン、自宅の家賃や光熱費などは、活動に使っている割合を見積もって、その部分だけを経費にする「按分」という考え方が必要になります。たとえば自宅の一室を制作スペースとして使っている場合、部屋の床面積や使用時間の割合をもとに、家賃や光熱費の一部を経費として計上する、という考え方です。按分の割合に絶対的な正解はなく、実態に即して合理的に説明できる基準を自分なりに決めておくことが大切です。
打ち合わせの飲食費についても同様で、音楽活動に関係のない食事まで経費にすることはできません。誰と、何のために行った打ち合わせなのかを、レシートや記録に残しておくと、後から見返したときにも説明しやすくなります。
経費計上で意識しておきたいのは、レシートや領収書をこまめに保存し、何のための支出だったかがわかるようにしておくことです。クレジットカードの明細だけでは、購入した具体的な内容がわからないことがあるため、レシートの現物や、購入品目のわかる記録を残しておくと、後から所得を計算するときにも、税務署から内容を聞かれたときにも困りません。
なお、経費として認められるかどうかの最終的な判断は、個々の状況によって異なります。ここで挙げた例は一般的に経費として認められやすいとされているものですが、迷う支出については税務署や税理士に確認しておくと安心です。
青色申告と白色申告
確定申告には、青色申告と白色申告の2つの方法があります。白色申告は比較的簡易な記帳で申告できる一方、青色申告は複式簿記による記帳など手間がかかる代わりに、税制上の優遇を受けられます。
青色申告の代表的な特典のひとつが、青色申告特別控除です。事業所得等を生じる事業を営み、複式簿記で記帳したうえで、貸借対照表と損益計算書を添付して期限内に申告することで、55万円の控除を受けられます。さらに、電子帳簿保存を行っている場合、または確定申告書等をe-Taxで提出している場合には、控除額が65万円に増える仕組みになっています。
また、青色申告を行っている事業者には、少額減価償却資産の特例という制度もあります。通常、10万円以上のパソコンや機材などを購入した場合、一括で経費にはできず、耐用年数に応じて数年に分けて減価償却する必要があります。しかし青色申告者の場合、30万円未満の資産であれば、年間合計300万円までを上限に、購入した年に一括で経費計上できる特例があります。この特例には適用期限が定められているため、利用を考えている場合は、申告する年の時点での最新の制度内容を確認してください。
事業所得ではなく雑所得として申告する場合、これらの青色申告の特典は使えません。事業としての実態を積み上げ、継続的な収入の柱になってきた段階で、税務署への開業届の提出や青色申告承認申請を検討する、という流れになります。開業届や青色申告承認申請の具体的な書き方・出し方については、税務署の窓口や税理士に相談するのが確実です。
ギャラ受け取り時の源泉徴収に注意する
ライブへの出演料や、楽曲提供の対価などを受け取る際、源泉徴収がかかることがあります。演奏料や出演料といった「報酬・料金等」に該当する支払いは、支払う側が所得税をあらかじめ差し引いて支払う源泉徴収の対象になりうるためです。
源泉徴収された分は、税金を払いすぎたわけではなく、あらかじめ天引きされた前払いのようなものです。確定申告を行うことで、実際の所得や各種控除をもとに正しい税額が計算され、源泉徴収された金額がその税額を上回っていれば、差額が還付される可能性があります。逆に言えば、源泉徴収されているからといって申告をしなくてよいとは限らず、申告することで還付を受けられるケースがある、という点は覚えておくとよいでしょう。
主催者やクライアントから支払調書が渡される場合は、源泉徴収された金額の記録として、確定申告の際に使う書類のひとつになります。支払調書が渡されない場合でも、振込明細や契約書などから、源泉徴収された金額を自分で把握できるようにしておくと安心です。
記録の残し方
確定申告に慌てないためには、日頃からの記録が何より重要です。特別な会計ソフトを使わなくても、次のような形で最低限の記録を残しておくことをおすすめします。
- 収入があった日付、金額、相手先(主催者名やクライアント名など)を記録する
- 経費として使った支出について、レシートや領収書を保管し、何のための支出かをメモしておく
- 月に一度など、決まったタイミングで収支をまとめておく
- 銀行口座やキャッシュレス決済を、できるだけ音楽活動用と生活用で分けておく
活動用の口座やカードを分けておくと、確定申告の時期にまとめて明細を見返すだけで、収入と経費の全体像をつかみやすくなります。逆に、生活費の支払いと活動の支払いが同じ口座で混在していると、後から仕分ける作業に多くの時間を取られてしまいます。活動を始めたばかりの段階から、口座を分けておくことをおすすめします。
音楽活動ならではの判断に迷う支出
音楽活動には、他の副業にはあまり見られない支出も多くあります。たとえば、CDやサブスクの他アーティストの音源を「参考のため」に購入した費用、ライブ会場までの遠征費、他のアーティストのライブを観るためのチケット代などです。これらは活動の参考として意味のある支出であっても、私的な娯楽との境界があいまいになりやすい部分でもあります。
こうした支出については、なぜその支出が自分の音楽活動に必要だったのかを、自分の言葉で説明できるようにしておくことが大切です。説明できる根拠があるかどうかが、経費として計上してよいかどうかの目安になります。判断に迷う支出が多い場合は、一度税理士に相談し、自分の活動における経費の考え方の基準を作っておくと、その後の判断がぐっと楽になります。
まとめ
音楽活動によるお金の流れは、ライブのギャラ、楽曲提供料、投げ銭、サブスクの再生に伴う収益など、会社員の給与とは違う形で発生します。だからこそ、いつ確定申告が必要になるのか、何が経費にできるのかという基本を早いうちに知っておくと、活動が軌道に乗ってきたときに慌てずに済みます。
金額や制度の細かい部分は年によって変わることもあるため、最終的な判断は国税庁の案内や税務署、税理士への相談を通じて確認してください。ここで紹介した考え方は、その相談をするための土台として役立ててもらえればと思います。
マイグルのようなアーティストサイトに、自分の活動履歴やリリース情報をまとめておくと、いつ・どんな収入があったのかを振り返る際の記録としても役立ちます。日々の活動記録を整理しておくことは、確定申告の準備にもつながっていきます。



