「なんとなく上手くなりたい」が一番危険な理由
音楽活動を始めたばかりの頃は、とにかく作りたい、歌いたい、演奏したいというエネルギーだけで走れます。しかし半年、一年と経つうちに、多くの人が同じ壁にぶつかります。「最近モチベーションが上がらない」「何のために続けているのか分からなくなった」という状態です。
これは才能や情熱が足りないからではありません。多くの場合、原因は目標の立て方にあります。「上手くなりたい」「有名になりたい」といった漠然とした願望は、方向は示してくれますが、日々の行動には結びつきません。今日何をすればいいのか分からないまま「なんとなく」作業を続けていると、進んでいる実感が持てず、燃え尽きにつながりやすくなります。
継続するための目標の立て方には、いくつかの実践的な工夫があります。以下、具体的に見ていきます。
大きな目標と小さな目標を分けて考える
目標には性質の異なる二種類があると考えると整理しやすくなります。「方向を示す目標」と「行動を決める目標」です。
方向を示す目標とは、「ボカロPとして活動の幅を広げたい」「バンドでオリジナル曲を発表し続けたい」といった、長期的なビジョンです。これは変わりにくく、活動の軸になります。一方で、この種の目標だけを掲げていても、次に何をすべきかは決まりません。
行動を決める目標とは、「今週中にイントロのコード進行を3パターン作る」「今月中にミックスを1曲仕上げる」といった、具体的で達成可否がはっきり分かるものです。継続のカギは、この行動を決める目標をどれだけ細かく、かつ現実的に設定できるかにあります。
両者の役割を整理すると、次のようになります。
- 方向を示す目標
- 役割:活動の軸を決める
- 例:オリジナル曲を発表し続ける
- 中間目標
- 役割:方向目標を具体化する
- 例:次の1曲を完パケまで持っていく
- 行動目標
- 役割:実際の作業を決める
- 例:今日はベースラインを打ち込む
期間の長さは人によって、また曲によって大きく異なります。方向目標は数ヶ月単位で見直せば十分ですし、行動目標は「今日」「今週」のように短く区切るのが基本です。大切なのは期間の長さそのものより、大きな目標しか持っていない人は日々の行動が曖昧になり、小さな目標しか持っていない人は何のためにやっているのか見失いがちだという点です。両方を階層として持つことを意識してみてください。
「達成できるかどうか五分五分」の難易度を選ぶ
目標を立てるときによく言われるのが、難易度が高すぎても低すぎてもモチベーションが下がりやすいということです。簡単すぎる目標は達成感が薄く、退屈につながります。逆に難しすぎる目標は、達成できない日々が続くことで自信を失い、活動そのものから距離を置きたくなります。
感覚的な目安としては、「今の自分の実力なら、真剣に取り組めば達成できるかもしれないし、できないかもしれない」というラインを狙うとうまくいきやすい、とよく言われます。スポーツや資格試験の勉強などでも似たような感覚が語られることが多く、音楽活動にも応用できる考え方です。
例えば、これまで1曲を完成させるのに3ヶ月かかっていた人が、いきなり「今月中に1曲完成」を目標にすると、多くの場合挫折します。逆に「半年で1曲」では余裕がありすぎて、締め切り前にまとめて作業するような習慣がついてしまうこともあります。少し背伸びしたラインを、自分の感覚で探ることが重要です。
難易度の感覚は人によって大きく違うので、他人の目標をそのまま真似ても機能しません。自分がこれまでどれくらいのペースで作業できていたかを振り返り、そこから少しだけ引き上げる形で設定するのが現実的です。
「完成」ではなく「工程」を目標にする
音楽制作は工程が多く、しかもどこで詰まるかが人によってまったく違います。作詞が得意でもミックスが苦手な人、メロディはすぐ浮かぶけれど編曲に時間がかかる人など、ボトルネックは様々です。
そのため、「1曲完成させる」という大きな目標だけを掲げると、途中経過が見えにくくなります。おすすめなのは、工程ごとに小さなチェックポイントを作ることです。
一般的な楽曲制作の工程を分解すると、次のようになります。
- コンセプト・仮歌詞・仮メロディの決定
- コード進行と構成(イントロ・Aメロ・サビなど)の確定
- 本メロディとリズムの作り込み
- 編曲(伴奏・アレンジ)
- 録音・打ち込みの本番テイク
- ミックス
- マスタリング
- 公開・告知
この8つの工程それぞれに「今週はここまで進める」という目標を設定すると、1曲が完成するまでの間も、定期的に達成感を得られます。特に、ミックスやマスタリングのように時間がかかりやすい工程では、「音量バランスだけ整える」「ボーカルの処理だけ終わらせる」のように、さらに細かく分けることも有効です。
バンドの場合は、これがメンバー間の役割分担ともリンクします。誰がどの工程を担当していて、今どこで止まっているのかを可視化するだけでも、全体の停滞を防ぎやすくなります。
数値目標と行動目標を混ぜて使う
目標には「アップロード本数」「練習時間」のような数値目標と、「あのフレーズを弾けるようにする」のような行動目標があります。どちらか一方だけに偏ると、それぞれ弱点が出てきます。
数値目標だけに偏ると、量をこなすことが目的化してしまい、質が置き去りになることがあります。例えば「週1本投稿」を目標にすると、テンプレート的な曲を量産して満足してしまうケースもあります。
行動目標だけに偏ると、成長の実感が数値として見えないため、続けているうちに「本当に進歩しているのか」が分からなくなりがちです。
そのため、両方を併用するのが現実的です。例えば、次のような組み合わせが考えられます。
- 数値目標: 一定期間で決めた本数の曲を公開する
- 行動目標: 毎回、前回よりも難しいコード進行を1つ取り入れる
- 数値目標: 月に決めた回数だけ弾き語り動画を撮る
- 行動目標: 毎回、録音を聴き返してテンポのズレを1箇所以上修正する
数値目標が「継続しているかどうか」を確認する指標になり、行動目標が「その中身が向上しているかどうか」を確認する指標になります。
目標と一緒に「やめる基準」も決めておく
意外と見落とされがちですが、目標を立てるときには「どこまでやったら今日はやめるか」も決めておくと、継続しやすくなります。
音楽制作はゴールが曖昧になりやすい作業です。ミックスは特にそうで、「もう少し良くできるかもしれない」と思い始めるとキリがありません。作業時間や終了条件を決めずに取り組むと、一度で疲弊してしまい、次に取り組む腰が重くなります。
具体的には、次のような終了条件を先に決めておく方法があります。
- 時間で区切る(今日は2時間だけ作業する)
- 工程で区切る(サビのメロディが決まったら今日は終わり)
- 回数で区切る(ミックスの微調整は3回まで)
終了条件があることで、「今日はここまでやった」という達成感を毎回得やすくなります。逆に終了条件がないと、達成感を得られるのは「曲が完成した日」だけになり、その間の日々はすべて「まだ終わっていない」という感覚のまま過ぎていきます。この差が、長期的な継続のしやすさに影響してくると考えられます。
目標が崩れたときの立て直し方
どれだけ丁寧に目標を設計しても、忙しさや体調、モチベーションの波によって計画通りに進まないことは普通にあります。ここで重要なのは、目標が崩れたこと自体を失敗と捉えないことです。
目標が達成できなかったときに考えるべきは、次の3点です。
- 目標の難易度が実力に対して高すぎなかったか
- 生活リズムの変化など、外部要因が影響していないか
- そもそもその目標が今の自分の興味と合っていたか
特に3つ目は見落とされがちです。数ヶ月前に立てた目標が、今の自分の興味や状況と合わなくなっていることもあります。バンドでの活動を目標にしていたが、今は弾き語りに関心が向いている、といった変化はごく自然に起こります。目標を変えることは失敗ではなく、活動を続けるための調整です。
達成できなかった目標を無理に引きずるより、今の自分に合わせて目標自体を小さく作り直す方が、結果的に長く続けられます。「目標を立てたら最後まで変えてはいけない」という思い込みを手放すことも、継続のための一つの工夫です。
記録を振り返る仕組みを持つ
小さな目標を積み重ねていく上で効果的なのが、達成したことを後から振り返れる形で記録しておくことです。人は日々の小さな進歩を忘れやすく、数ヶ月前の自分がどれだけできなかったかを覚えていません。そのため、成長を実感しにくく、モチベーションの維持が難しくなります。
記録の方法は特別なものである必要はなく、次のような簡単なものでも十分機能します。
- 完成した曲やテイクを日付付きで残しておく
- 「今週やったこと」を短くメモしておく
- 練習で弾けるようになったフレーズを書き留めておく
数ヶ月に一度、この記録を見返す時間を作ると、当時は気づかなかった成長や、繰り返し詰まっているポイントが見えてきます。これは次の目標を立てる際の材料にもなります。
マイグル2のような制作管理サービスを使っている場合は、曲ごとの進行状況ややり取りが自然と記録として残っていくため、こうした振り返りの手間を減らす助けになります。ただし、記録の仕組みは紙のノートでもスプレッドシートでも構いません。大切なのは、自分の活動を振り返れる形にしておくという発想そのものです。



