好きな曲を並べてみることから始める

自分の音楽性がわからない、作風が定まらないという悩みは、曲を作り始めてから何年経っても消えないものです。プロの作曲家やアレンジャーでも、依頼のない自主制作となると急に方向性に迷うことがあります。これは才能や経験の問題というより、多くの人が「作風」を最初から言葉で定義しようとしてしまうことに原因があります。作風は言葉で決めるものではなく、すでに自分の中にある好みを後から発見していく作業に近いものです。

最初の一歩として有効なのは、理屈抜きに「今まで繰り返し聴いてきた曲」を実際にリストアップしてみることです。ジャンルや時代を問わず、思いつく限り20曲から30曲を書き出してみます。このとき「これはマニアックすぎるから」「今の自分のジャンルと違うから」といった選別をせず、単純に好きで何度も聴いた曲を並べるのがポイントです。作風を狭めているのは、たいてい本人の中にある「らしさ」への思い込みであり、リストを作る段階でその思い込みを外しておく必要があります。

リストが完成したら、曲名の横に「初めて聴いた時期」を書き添えてみるのもおすすめです。中学生の頃に聴いていた曲と、ここ数年で聴いた曲とでは、影響の受け方が異なります。早い時期に聴いた曲は、理屈より先に体に染み込んでいることが多く、逆に最近聴いた曲は理性的に「良い」と判断している場合があります。両方が混在しているリストのほうが、作風の土台としては豊かになります。

影響を分解して言語化する

曲を並べただけでは、まだ作風の輪郭は見えてきません。次に必要なのは、それぞれの曲の「何に惹かれたのか」を要素ごとに分解することです。曲全体の印象をひとまとめにせず、以下のような観点で分けて書き出すと、共通点が見つけやすくなります。

  • メロディ: 音の跳躍が大きいか、順次進行が多いか、サビの入り方は予想通りか裏切るか
  • コード進行: 王道進行が多いか、テンションやモーダルな響きを好むか
  • リズムと拍感: 四つ打ちか、跳ねるビートか、変拍子的な要素があるか
  • 音色と質感: 生楽器主体か打ち込み主体か、歪んだ音が好きか澄んだ音が好きか
  • 歌詞や言葉選び: 具体的な情景を描くか、抽象的なイメージで語るか
  • 構成: イントロが長いか短いか、展開の起伏が激しいか一定か

この作業を20曲、30曲に対して行うと、ジャンルはバラバラでも「同じ要素」が繰り返し出てくることに気づきます。たとえばジャンルとしてはロックとエレクトロニカとボーカロイド曲が混在していても、「サビ前に一度音数を減らして溜めを作る」「短調でも明るい和音を混ぜる」といった共通の好みが浮かび上がってくることがあります。この共通項こそが、ジャンル名では説明できない自分の音楽性の正体です。

分解作業をするときは、好きな理由を一言でまとめようとしないことも大切です。「かっこいいから」で止めてしまうと、次に活かせる情報になりません。「かっこいい」と感じた瞬間が曲のどこだったか、その瞬間に鳴っている楽器は何か、テンポは上がったか下がったか、というところまで踏み込んで初めて、模倣可能な情報になります。感覚を分解して言葉にする作業は最初は時間がかかりますが、回数を重ねるほど早くできるようになります。

模倣は恥ではなく通過点である

作風を模索する過程で、特定のアーティストや曲に強く似てしまうことを気にする人は少なくありません。しかし模倣そのものは、学習の過程として避けて通れないものです。絵画でも文章でも、最初は好きな作り手の型をなぞることから始まり、そこから少しずつ自分の要素が混ざっていくのが自然な流れです。重要なのは「模倣をやめること」ではなく「模倣の対象を複数持つこと」です。

一人のアーティストだけを参照していると、コード進行やメロディの型までそのまま似てしまいやすくなります。一方で、影響源を意識的に3つ以上に増やすと、それぞれの型が混ざり合う過程で、どの元ネタとも完全には一致しない響きが自然に生まれます。具体的には、次のような組み合わせ方が考えられます。

  • コード進行はアーティストAのサビ進行をベースとして採用する
  • メロディの跳躍感はアーティストBのメロディラインを参考にサビのフックへ応用する
  • リズムの質感はアーティストCのビート感を、Aの進行に重ねて再構成する

このように要素単位で複数の参照元を組み合わせることで、単一の模倣から一歩進んだ状態を作ることができます。最初は意図的に「継ぎ接ぎ」で構わないので、まずは複数の好きな要素を一曲の中に同居させてみることが、模倣から独自性への移行における現実的な方法です。

継ぎ接ぎであることに引け目を感じる必要はありません。要素の組み合わせ方そのものに、すでにその人の選択が反映されています。同じ3つの参照元を渡しても、どの要素を主役にするか、どの順番で重ねるかは人によって変わります。組み合わせを繰り返しているうちに、参照元を意識しなくても自然にその配合ができるようになっていき、それが「自分の型」として定着していきます。

制約を設けて選択の癖を可視化する

自分の音楽性は、選択肢が無限にある状態では見えにくく、逆に制約がある状態でこそはっきりと表れます。使える楽器を減らす、テンポを固定する、コード進行を先に決めてからメロディを作るなど、あえて自由度を下げた状態で何曲か作ってみると、その制約の中でどこに個性が出るかが観察しやすくなります。

たとえば「ドラムとベースとコードだけで一曲作る」という制約を設けた場合、メロディや歌詞に頼れない分、リズムの組み方やコードの選び方に本人の癖が色濃く出ます。逆に「メロディだけを先に鼻歌で作ってから伴奏をつける」という制約であれば、伴奏の付け方よりもメロディラインそのものの癖が浮き彫りになります。複数の制約条件で曲を作り比べてみることで、どの条件でも共通して出てくる特徴と、条件によって変わる部分とを切り分けられるようになります。

制約は一つに固定せず、以下のように条件を変えて何パターンか試してみると効果的です。

  1. 使用楽器を3種類までに絞って一曲作る
  2. テンポを固定した状態で、異なるジャンルのつもりで二曲作り比べる
  3. コード進行を先に決めてからメロディをのせる
  4. メロディを鼻歌で先に作ってから伴奏をつける
  5. 制限時間を決めて、一気に最後まで作り切る

同じ人が作っていても、制約によって曲の印象は大きく変わります。しかし複数のパターンを並べてみると、テンポが違っても同じようなコード運びを選んでいたり、楽器が違っても同じリズムパターンを繰り返し使っていたりすることに気づきます。制約は個性を消すものではなく、個性を浮かび上がらせるためのフィルターとして機能します。

作った曲を時系列で振り返る

作風は一曲を分析しただけでは見えず、複数の曲を時系列で並べて初めて傾向として見えてくるものです。過去に作った曲を古い順に並べ、コード進行やテンポ、使用楽器、歌詞のテーマなどを簡単にメモしてまとめてみると、自分でも気づいていなかった一貫性が見つかることがあります。逆に、時期によって大きく変化している部分があれば、それは外部からの影響を強く受けた時期だったと推測できます。

この振り返りは、恥ずかしさから過去の曲を聴き返さない人ほど有効です。技術的な未熟さは気になっても、根底にある嗜好や癖は初期の曲にもすでに表れていることが多く、そこに「変わらない部分」を見つけることが、作風を言語化する近道になります。

振り返りの際は、曲そのものだけでなく、その曲を作っていた時期に自分が何を聴いていたか、何に影響を受けていたと感じていたかも一緒にメモしておくと、後から見返したときの情報量が増えます。数年後にまた同じ振り返りをするとき、そのメモが自分の変化を追うための材料になります。作風とは一度確定して終わるものではなく、時間とともに更新され続けるものだからこそ、記録を残しておく価値があります。

他人からの評価を参考程度に扱う

作風を模索する過程では、周囲やリスナーからの感想も参考になりますが、それに頼りすぎると本来の方向性を見失うことがあります。「この曲が一番良かった」という感想が集まったとしても、それが自分にとって一番作っていて楽しかった曲とは限りません。他者評価は「伝わりやすさ」の指標にはなりますが、「自分らしさ」の指標としては不完全です。両者がずれている場合は、どちらを優先するかを都度自分で判断する必要があります。

とはいえ、他者評価を完全に無視するのも得策ではありません。自分では手応えを感じていなかった曲が思いのほか評価される場合、そこには自分では気づいていない強みが隠れていることがあります。大切なのは、評価をそのまま鵜呑みにして次の曲の方向性を決めることではなく、なぜその曲が評価されたのかを自分の言葉で分解し、先述した「影響の分解」と同じ作業を自分の曲に対しても行うことです。他者評価は結論ではなく、分析のきっかけとして扱うのが適切な距離感だと言えます。

作風とは、他人に説明するための肩書きではなく、次の曲を作るときの判断基準として機能して初めて意味を持ちます。分解と模倣と振り返りを繰り返しながら、自分の中の判断基準を少しずつ言葉にしていく作業そのものが、作風を見つけるということだと言えます。

こうして整理した好みや判断基準は、自分の中だけに留めておくよりも、実際に人に聴いてもらい、反応と照らし合わせることで確度が上がっていきます。マイグル2のようなサービスでは、制作した曲を公開してリスナーからの反応を得たり、同じように試行錯誤している他の作り手の楽曲に触れたりすることができます。自分の作風を一人で完結させず、外部からのフィードバックを取り入れる場として活用するのも一つの選択肢です。