音楽で生計を立てているプロの制作者は一部で、多くの音楽制作者は仕事や学業を続けながら、限られた時間の中で制作活動をしています。両立がうまくいかず、音楽から距離を置いてしまう人がいる一方で、長く両立を続けている人もいます。その違いは、才能や熱意の差だけではなく、時間の使い方や考え方の工夫によるところが大きいといえます。
この記事では、本業を持ちながら音楽活動を続けていくための、時間の作り方と考え方を整理します。
まとまった時間を待たない
「まとまった時間ができたら制作しよう」と考えていると、いつまでも制作に着手できないまま日々が過ぎてしまうことがあります。本業がある生活では、何時間も自由に使える時間が定期的に訪れることは稀です。
まとまった時間を待つのではなく、15分、30分といった短い時間でもできる作業を用意しておくことが、継続の鍵になります。
- 通勤中にスマートフォンでメロディのアイデアを録音する
- 昼休みに歌詞のフレーズをメモする
- 帰宅後の30分だけDAWを開いて、前回の続きから手を動かす
小さな時間の積み重ねでも、継続していれば数週間、数か月という単位で見たときにはまとまった進捗になります。
制作を細かい工程に分解する
作曲、作詞、編曲、ミックスといった工程をひとまとめに「曲を作る」と捉えると、まとまった時間がないと着手しづらく感じられます。工程を細かく分解しておくと、短い時間でも取り組める単位になります。
| 工程 | 短時間でもできる作業の例 |
|---|---|
| 作曲 | メロディのアイデアをボイスメモに録る |
| 作詞 | 気になった言葉やフレーズをメモアプリに書き留める |
| 編曲 | 1つのパートだけ打ち込む、コード進行だけ決める |
| ミックス | 1つのトラックだけエフェクトを調整する |
「今日はこの工程のこの部分だけをやる」という単位で目標を立てることで、限られた時間でも前進している実感を得やすくなります。
優先順位を決めておく
本業、家庭、音楽活動、そのほかの用事が重なったとき、すべてを同じ熱量でこなそうとすると、どこかで無理が生じます。あらかじめ、自分にとっての優先順位をある程度決めておくと、忙しい時期の判断がしやすくなります。
たとえば「本業に支障が出るほど音楽を優先しない」「週に一度は必ず制作の時間を確保する」といった、自分なりの基準を持っておくことで、忙しさに流されて音楽から完全に離れてしまう事態を防ぎやすくなります。
締め切りを自分で作る
本業がある生活では、音楽制作に明確な締め切りが存在しないことが多く、それが後回しにされる一因になります。ライブの予定、同人即売会への出展、SNSでの投稿予告など、自分自身で締め切りを作ることで、制作にリズムが生まれます。
「◯月◯日までに1曲仕上げて投稿する」という目標を先に周囲に宣言してしまうことも、締め切りを機能させる手段の1つです。公言することで、多少の後ろめたさが良い意味でのプレッシャーになり、手を動かすきっかけになります。
疲れているときは無理をしない
本業で疲れている日に、無理に制作時間を確保しようとすると、かえって音楽に対する苦手意識が育ってしまうことがあります。疲れているときは、制作そのものではなく、音楽を聴く、ライブの映像を見るといった、負荷の低いインプットの時間に切り替えるという選択肢もあります。
「毎日必ず制作する」というルールを自分に課しすぎると、達成できなかった日に自己嫌悪を感じやすくなります。継続の仕組みは、多少崩れても再開しやすい、柔軟なものにしておくほうが長続きします。
一緒に活動する仲間の存在
一人で両立を続けていると、忙しさに押されて自然消滅的に活動が止まってしまうことがあります。バンドやユニットなど、一緒に活動する仲間がいる場合、お互いの状況を共有し合うことで、一人では続けにくい時期も乗り越えやすくなります。
定期的な進捗の共有や、次のライブ・リリースの予定を仲間と決めておくことは、本業がある中でも音楽活動を続けるための、外部からの推進力になります。
両立の形は人によって違う
両立の理想的な形は一つではありません。毎日短時間でもコツコツ続ける人もいれば、繁忙期は完全に制作から離れ、落ち着いた時期に集中して作る人もいます。他人の両立スタイルと自分を比較する必要はなく、自分の本業の忙しさやライフステージに合った形を見つけていくことが大切です。
長く音楽活動を続けている人の多くは、一定のペースを保ち続けているというより、忙しい時期と制作に集中できる時期の波を受け入れながら、細く長く関わり続けています。その姿勢自体が、両立を長続きさせる最大のコツだといえるでしょう。他の人の発信頻度や完成度と自分を比べて焦る必要はなく、自分の生活の中で無理なく続けられるリズムを見つけることを優先してください。それこそが、本業を持ちながらでも音楽を長く続けていくための、一番現実的な土台になります。
繁忙期を乗り切るための備え
本業が特に忙しくなる時期があらかじめわかっている場合(決算期、繁忙期の異動、試験期間など)は、その時期が来る前に準備をしておくことで、活動が完全に止まってしまう事態を避けやすくなります。
繁忙期に入る前に、進行中の曲を一区切りつけておく、SNSでの発信予約をまとめて仕込んでおく、しばらく更新が減ることを事前にファンに伝えておくといった対応をとることで、繁忙期の間も活動が完全に途切れている印象を避けられます。忙しい時期が明けた後にスムーズに再開できるよう、区切りの良いところまで進めておくことも、一つの工夫です。
逆に、繁忙期が明けた直後は、久しぶりの制作に手間取ることもあります。休止前に「再開したらまず何から手をつけるか」を簡単にメモしておくと、再開のハードルを下げられます。長期間手を動かしていないと感じるときほど、いきなり大きな作業に取り組もうとせず、小さな作業から慣らしていく意識を持つとよいでしょう。
制作環境を持ち運べるようにしておく
自宅以外の場所でも作業ができる環境を整えておくと、両立の自由度が上がります。ノートパソコンとオーディオインターフェース、ヘッドホンさえあれば、出張先や実家など、自宅以外の場所でも制作の続きに取り組める場合があります。
すべての作業を持ち運べる環境で完結させる必要はありませんが、アイデアのメモや簡単な打ち込みだけでも外出先でできるようにしておくと、生活の中で生まれるわずかな空き時間を制作に充てやすくなります。クラウド上にプロジェクトファイルを同期しておけば、自宅のメイン環境と外出先の簡易環境との間で作業を引き継ぎやすくなり、場所を選ばずに続きから作業を再開できます。
まとめ
本業と音楽活動の両立は、まとまった時間の確保を目指すよりも、細切れの時間の活用、工程の分解、無理のない優先順位づけの積み重ねによって成り立っています。完璧な両立を目指さず、忙しい時期は活動量を落としてでも完全にはやめない、という柔軟な姿勢を持つことが、長く音楽と関わり続けるための現実的な方法です。



