テーマが決まらないのはネタ切れではない

「何を歌えばいいかわからない」という悩みは、多くの場合、書くべき出来事や感情が本当に尽きてしまったわけではありません。むしろ、日常の中にある小さな出来事や感情を、「曲のテーマになり得るもの」として認識できていないだけ、というケースがほとんどです。

大きな出来事、劇的な失恋や人生を変えるような経験だけが曲のテーマになるわけではありません。むしろ多くの人が共感できる曲は、誰もが経験するようなささやかな感情の機微を扱っていることが多くあります。この記事では、テーマを見つけるための具体的な視点と、見つけたテーマを曲に落とし込むまでの考え方を紹介します。

身の回りの出来事を書き出してみる

まず手を動かして、直近1週間から1ヶ月の間に自分の心が動いた出来事を書き出してみます。感情が動いた瞬間であれば、良い感情でも悪い感情でもかまいません。

  • 電車で座れなかったときに感じたささいな苛立ち
  • 誰かに褒められて素直に喜べなかった気持ち
  • 深夜に一人で作業をしているときの充実感と孤独感
  • 昔の写真を見返して感じた、時間が経ったことへの実感
  • SNSで他人の投稿を見て感じた焦りや比較の気持ち

こうして書き出してみると、日常の中には意外なほど多くの「感情が動いた瞬間」があることに気づきます。曲のテーマは、この中から「自分がもっと深く掘り下げてみたい」と感じるものを選ぶところから始まります。

感情に名前をつけすぎない

出来事を書き出したら、それを「寂しい」「嬉しい」といった単純な感情の言葉に一括りにしてしまう前に、もう少し具体的に掘り下げてみます。

たとえば「寂しい」という感情ひとつをとっても、「誰かに会いたいという寂しさ」なのか、「自分の努力が誰にも気づかれていないという寂しさ」なのか、「変化していく物事に取り残される寂しさ」なのかによって、歌詞に落とし込んだときの言葉はまったく違うものになります。

感情を一言でまとめてしまう前に、「なぜそう感じたのか」「その感情の中にどんな要素が混ざっているか」を自分に問いかけてみることで、ありきたりな表現に落ち着かない、自分だけのテーマが見えてきます。

テーマを見つける4つの切り口

具体的な出来事がすぐに思い浮かばない場合は、次のような切り口から考えてみると、テーマの手がかりが見つかりやすくなります。

1. 時間の切り口

過去・現在・未来のどこに焦点を当てるかという切り口です。過去を振り返る曲、今この瞬間の感情を切り取る曲、まだ見ぬ未来への期待や不安を歌う曲では、同じような感情でもまったく違う曲になります。

2. 対象の切り口

誰、あるいは何に向けた曲かという切り口です。恋人、友人、家族、過去の自分、あるいは特定の誰かではなく「聴いてくれる人全員」に向けた曲など、対象を変えるだけで歌詞の言葉選びは大きく変わります。

3. 対比の切り口

「変わらないものと変わっていくもの」「理想と現実」「一人でいることと誰かといること」のように、対になる2つの状態の間で揺れ動く気持ちを描く切り口です。対比構造を意識すると、Aメロとサビで違う感情を配置しやすくなり、曲に展開が生まれます。

4. 具体物の切り口

感情から入るのではなく、「電車」「夜の街灯」「使い古した楽器」のような具体的な物やシチュエーションから入り、そこにまつわる感情を後から見つけていく切り口です。抽象的な感情から始めるより、具体的な物から始めたほうがイメージが膨らみやすい、という人にはこちらの方法が向いています。

他人の曲からテーマの構造を学ぶ

好きな曲を聴くとき、「何をテーマにしているか」「そのテーマをどんな視点・対象・時間軸で描いているか」を意識して分析してみるのも有効な方法です。

歌詞そのものを借りることはできませんが、「別れをどの時間軸から描いているか」「何に例えて感情を表現しているか」といった構造は、自分の曲作りに応用できる学びになります。同じ「別れ」というテーマでも、直後の視点で描く曲と、何年も経ってから振り返る視点で描く曲とでは、まったく違う印象の曲になることが、実例を通して理解できるようになります。

テーマが壮大すぎるときの絞り方

「人生とは何か」「愛とは何か」のような壮大なテーマを最初に思いつくこともありますが、あまりに抽象的なテーマは、そのままでは歌詞に落とし込みにくいものです。

壮大なテーマを扱いたい場合は、それを体現する具体的な一場面、一人の人物、一つの出来事にまで絞り込む作業が有効です。「人生とは何か」というテーマであれば、「引っ越しの日に部屋を見渡したときに感じたこと」のような一つの具体的な場面に絞ることで、抽象的なテーマを扱いながらも、聴き手が想像しやすい歌詞になります。

大きなテーマを扱うほど、具体的な場面や物への絞り込みが重要になる、という関係を覚えておくと、テーマが壮大すぎて手がつけられない、という状態を避けやすくなります。

テーマ探しに行き詰まったときの気分転換

机の前でじっと考えていても、テーマが降ってくるとは限りません。次のような行動が、思考を切り替えるきっかけになることがあります。

  1. 普段通らない道を歩いてみる
  2. 昔のアルバムや日記、当時のプレイリストを見返す
  3. ジャンルの違う映画や本に触れる
  4. 誰かと会話をして、最近あった出来事を話してみる
  5. 楽器を持たずに散歩をしながら、思いついた言葉をメモする

特に、誰かに近況を話す行為は、自分では気づいていなかった「実は気になっていたこと」を言語化するきっかけになりやすく、テーマ探しの手段として侮れません。

テーマが決まった後にやること

テーマの一文が決まったら、それをすぐに歌詞の細部に落とし込もうとせず、まず曲の構成(Aメロ・Bメロ・サビでそれぞれ何を描くか)を大まかに決めておくと、後の作業がスムーズになります。

たとえば「変わらない日常への感謝」というテーマであれば、Aメロで日常の具体的な描写、Bメロで一度その日常を失いかけた経験や不安、サビでその日常への感謝という感情の解放、という流れを組み立てることができます。テーマから構成、構成から歌詞という順番で進めることで、途中で迷ったときにも立ち返る場所ができます。

テーマは何度も変わっていい

一度決めたテーマに固執する必要はありません。曲を作り進める中で、当初とは違う側面が見えてきて、テーマが変化していくことはよくあります。テーマを決める作業は、曲を完成させるための出発点であり、絶対に守らなければならない制約ではないと考えておくと、柔軟に曲作りを進めやすくなります。

自分の中から出てきたテーマを曲にできたら、それを誰かに聴いてもらうことで、自分では気づかなかった曲の魅力に気づくこともあります。マイグルのような楽曲制作者向けのサービスを使えば、作った曲を公開し、感想をもらう場を持つこともできます。テーマ探しから完成まで積み重ねた一曲を、ぜひ多くの人に届けてみてください。