弾き語りやピアノ1本で作ったデモは、メロディとコードさえ良ければそれだけで心を動かします。ところが同じ曲にドラムやベース、ギター、シンセを足していくと、なぜか散らかった印象になってしまうことがあります。原因の多くは、楽器を増やしたこと自体ではなく、それぞれの楽器に「役割」が与えられていないことにあります。

編曲とは、突き詰めると次の3つを決める作業です。

  • どの楽器に、どの役割を担わせるか
  • それぞれの楽器を、どの音域に配置するか
  • 曲の展開に合わせて、音数や役割をどう変化させるか

この3つが整理されていれば、使う楽器の数が少なくても曲は「完成している」ように聴こえます。逆にどれだけ音数を増やしても、役割と音域が重なっていれば、聴き手の耳には情報量ではなく「もやもや」として届いてしまいます。

楽器の役割分担を考える

まず4つの機能に分けて考える

バンドサウンドやポップスの編曲では、鳴っている音を次の4つの機能に分類すると整理しやすくなります。

  • リズム
    • 役割:曲の骨格となる拍を刻む
    • 代表的な楽器:ドラム、パーカッション
  • ベース
    • 役割:低音でコードの根音を支える
    • 代表的な楽器:ベース、シンセベース
  • ハーモニー
    • 役割:コードを鳴らして曲を彩る
    • 代表的な楽器:ギター、ピアノ、パッド系シンセ
  • メロディ
    • 役割:主旋律、または主旋律に応える動き
    • 代表的な楽器:ボーカル、リード楽器、オブリガートデモの段階では、ピアノやギター1本がハーモニーとベースと、時にはリズムの役割まで一手に引き受けていることがほとんどです。編曲とは、この一手に背負っていた役割を、複数の楽器に分配し直す作業だと考えると見通しが良くなります。

役割が重なると起きること

ギターがコードのハーモニーを弾きながら、同時にベースラインに近い低音のルート弾きもしていて、そこにシンセのパッドも同じような音域で分厚く鳴っている。こうした状態は、どの楽器も「ハーモニーとベースの両方」を担おうとしてしまい、結果として輪郭がぼやけます。

対策はシンプルで、1つの機能に対して主担当を1つか2つに絞ることです。たとえばAメロではギターのアルペジオだけでハーモニーを担当し、ベースはルート音を淡々と刻む。サビに入ったらギターはカッティングに切り替えて隙間を作り、その隙間にシンセのパッドを足してハーモニーを厚くする、というように、同じ「ハーモニー担当」でも曲の場面ごとに主役を交代させると、常に音数は少なめでも展開が感じられる編曲になります。

オブリガートという発想

ボーカルが主旋律を歌っている間、他の楽器は基本的に伴奏に徹するべきですが、歌の合間、いわゆる「息継ぎの隙間」に短いフレーズを挟むと、曲に表情がつきます。これをオブリガートと呼びます。ギターの合いの手、ストリングスの一節、シンセの短いアルペジオなど、ジャンルを問わず使われる手法です。

ただし歌っている最中に同じ音域でオブリガートを重ねると、歌詞の聴き取りを邪魔してしまいます。オブリガートは「歌が休んでいる場所」に配置するのが基本で、これは次に説明する音域の住み分けとも直結する考え方です。

音域の住み分け

周波数帯という視点で聴く

編曲がうまくいかないとき、多くの場合は複数の楽器が同じ周波数帯で鳴り合っています。人間の耳は、同じ帯域に音が集中すると、それぞれの音を分離して認識しづらくなります。目安として、大まかな帯域を意識すると整理しやすくなります。

  • 低域
    • 主に鳴る楽器:キック、ベース
    • 注意点:低域を担当する楽器を絞らないと曲全体が濁る
  • 中低域
    • 主に鳴る楽器:ベースの上倍音、ギターやピアノの低い和音
    • 注意点:ハーモニー楽器が多いと詰まりやすい帯域
  • 中域
    • 主に鳴る楽器:ボーカル、ギターのコード、ピアノ
    • 注意点:最も情報量が多く、渋滞しやすい
  • 高域
    • 主に鳴る楽器:シンバル、シンセのきらびやかな音、ボーカルの倍音
    • 注意点:足しすぎると耳が疲れるキックとベースが同じような低域で存在感を主張し合うと、低音がもたついて聴こえます。ベースの音域を把握し、キックの音作りをそれに合わせて調整する、あるいはその逆で棲み分けるというのは、編曲というよりミックスの領域ですが、編曲の段階で「低域を担当する楽器は基本的に1つ」と決めておくと、後工程がずっと楽になります。

ボーカルの帯域を空ける

ポップスにおいて最も渋滞しやすいのが中域です。ボーカルの主旋律が鳴っている帯域に、ギターのコードストロークやピアノの右手、シンセのリードが同時に密集していると、歌詞が聴き取りにくくなります。

具体的な対処としては、以下のような方法があります。

  1. 歌が入る部分では、ハーモニー楽器のボイシング(和音の音の配置)を、ボーカルより低い音域か高い音域にずらす
  2. コードを鳴らす楽器を1つに絞り、他の楽器は単音のフレーズやリズムだけを担当させる
  3. イントロや間奏など、歌のない部分でだけ中域にメロディックなフレーズを入れる

とくに3番目は基本的でありながら効果が大きい方法です。歌がある間は伴奏に徹し、歌がない間奏で初めて主役を張る、という役割交代のリズムを作ることで、曲全体に緩急が生まれます。

高域と低域は「間引く」ほうが効く場合が多い

音を目立たせたいとき、初心者ほど音量を上げたり新しい楽器を足したりしがちですが、実は逆の発想、つまり周囲の音を間引くほうが効果的なことが多くあります。サビでボーカルを目立たせたいなら、ボーカルを大きくするよりも、同じ帯域で鳴っているギターの音数を減らす、あるいはコードのボイシングを開けて中域の密度を下げるほうが、無理なく歌が前に出てきます。

展開に合わせて音数と密度を変える

セクションごとに「情報量」を設計する

曲は一般的に、イントロ、Aメロ、Bメロ、サビ、間奏、大サビ、アウトロといったセクションで構成されます。編曲の完成度を左右するのは、各セクションの音数がきちんと差別化されているかどうかです。

  • イントロ
    • 音数の目安:中程度
    • 狙い:曲の世界観を提示する
  • Aメロ
    • 音数の目安:少なめ
    • 狙い:歌詞と物語を聴かせる余白を作る
  • Bメロ
    • 音数の目安:徐々に増やす
    • 狙い:サビへの期待感を高める
  • サビ
    • 音数の目安:最大
    • 狙い:曲のクライマックスを盛り上げる
  • 間奏
    • 音数の目安:中〜多め
    • 狙い:歌がない分、楽器が主役になれる場所
  • 大サビ以降
    • 音数の目安:サビと同等かそれ以上
    • 狙い:曲の到達点を作るすべてのセクションで同じ音数、同じ密度のアレンジをしてしまうと、曲は平坦に聴こえます。Aメロで音数を絞り込んでおくからこそ、サビで音数が増えたときに「盛り上がった」と感じてもらえます。これは音量の大小以上に、鳴っている楽器の数と、和音の厚みによって作られる効果です。

楽器を「足す」以外の展開方法

セクションごとに変化をつける方法は、楽器を足す・減らすだけではありません。

  • 同じ楽器でも、奏法を変える(アルペジオからストロークへ、単音弾きから和音弾きへ)
  • 音域を1オクターブ上げる、または下げる
  • リズムパターンを変える(裏打ちを増やす、休符を減らす)
  • エフェクトのかかり方を変える(ディストーションを深くする、リバーブを増やす)

音数を増やさずとも、これらの変化だけでセクションの区切りは十分に感じられます。むしろ音数を増やしすぎると、ミックスの段階で各楽器の存在感を確保するのが難しくなるため、まずは奏法や音域の変化で展開を作り、それでも物足りない場合にだけ楽器を追加する、という順番で考えると失敗が減ります。

参考にすべき聴き方

完成形の曲を「分解」して聴く

編曲の勉強として最も効果的なのは、好きな曲を「何となく」聴くのではなく、意図を持って分解して聴くことです。具体的には、次のような聴き方が役立ちます。

  1. まずボーカルだけを追いかけて聴く。次にベースだけ、ドラムだけ、というように1つの楽器に集中して聴き直す
  2. セクションが切り替わる瞬間に、何の楽器が増えた、または減ったのかを書き出す
  3. サビの前後で、ハーモニー楽器のボイシングがどう変わっているかを聴き比べる
  4. イヤホンとスピーカーなど、複数の再生環境で聴き比べ、低域と高域の聴こえ方の違いを確認する

とくに1番目の「1つの楽器だけを追う」聴き方は、普段聴き流していた編曲の工夫に気づく最短ルートです。ストリーミングサービスの中には、曲の一部を無料で試聴できるものもあるため、気になった曲のセクションごとの違いを繰り返し聴き比べるのにも活用できます。

ジャンルを横断して聴く

自分が普段作らないジャンルの曲を聴くことも編曲の引き出しを増やします。たとえば打ち込み中心のボカロ曲を作っている人が、生バンドのロックやシティポップを聴くと、生楽器ならではの音域の住み分けや、ライブ感を出すための音数の絞り方を学べます。逆に生楽器中心の人が電子音楽を聴くと、シンセの帯域の使い方や、音数を極限まで絞ったミニマルな展開の作り方が参考になります。

耳コピは全部やらなくていい

編曲を学ぶための耳コピは、曲を最初から最後まで完全に再現する必要はありません。サビ2小節のドラムパターンだけ、間奏のギターのボイシングだけ、というように、気になった部分だけを切り取って耳コピするほうが、時間対効果が高く、続けやすい方法です。

まとめとして、活動の場でも活かす

編曲は、正解が1つに決まる作業ではありません。しかし「役割を分担する」「音域を住み分ける」「展開に合わせて密度を変える」という3つの視点を持っておくだけで、デモ音源と完成音源の間にある距離はかなり縮まります。まずは自分の過去のデモを、この3つの視点で聴き直してみることから始めてみてください。

こうして仕上げた楽曲を人に届ける段階になったら、置き場所選びも編曲と同じくらい大事な工程です。マイグル2は、ボカロP・DTMer・歌い手・バンドなど個人の楽曲制作者が、作品とプロフィールをまとめて公開できるサービスです。編曲に力を入れた1曲を、聴いてもらうための入口とあわせて整えておくと、作品の完成度がより多くの人に伝わりやすくなります。