歌詞が書けないのは才能の問題ではない

曲は完成しているのに、歌詞だけがどうしても進まない。作曲をしている人であれば、一度は経験がある状況だと思います。多くの場合、これは才能や語彙力の問題ではなく、書き始める前の準備が足りていないことが原因です。

メロディは音の並びという比較的限られた選択肢の中で組み立てますが、歌詞は日本語という膨大な言葉の中から選ぶ作業です。選択肢が多すぎると、かえって何から手をつけていいかわからなくなります。この記事では、白紙の状態から歌詞を書き始めるための具体的な手順を紹介します。

まずテーマを一文で決める

歌詞を書き始める前に、「この曲で何を歌うのか」を一文で言えるようにしておくと、後の作業が驚くほど楽になります。

たとえば「別れた恋人を思い出しながらも前を向く曲」「深夜に一人で作業しているときの孤独と集中」「地元を離れて上京した日のことを振り返る曲」のように、状況と感情がセットになった一文を作ります。曲名やサビの一行を先に思いついている場合は、それを膨らませる形でテーマ文を作ると、すでにある素材を無駄にせずに済みます。

テーマが決まっていないまま歌詞を書き始めると、Aメロで書いた内容とサビで書きたい内容がずれてしまい、後から整合性を取るのに苦労します。逆に一文のテーマさえ決まっていれば、迷ったときにいつでもそこに立ち返ることができます。

誰が誰に向けて歌っているのかを決める

テーマが決まったら、次に「視点」を決めます。歌詞における視点とは、次の3つの要素の組み合わせです。

要素 選択肢の例
語り手 自分自身、架空の登場人物、擬人化された物や現象
聞き手 恋人、友人、過去の自分、未来の自分、不特定の誰か
時間軸 出来事の最中、終わった直後、何年も経った後の回想

同じ「別れ」というテーマでも、「別れた直後の自分から相手へ」の視点で書くのと、「何年も経った後に当時を振り返る自分」の視点で書くのとでは、選ぶ言葉もテンポもまったく変わります。視点が定まっていないと、1番は直後の視点、2番は回想の視点、というように途中でぶれてしまい、聴き手が混乱する歌詞になりがちです。

視点を決める作業は地味に見えますが、この段階を飛ばして書き始めると、後で最も直しにくい部分になります。歌詞全体の設計図として、最初に固めておく価値があります。

具体的な言葉から連想を広げる

テーマと視点が決まったら、抽象的な感情の言葉ではなく、具体的な名詞や情景から言葉を広げていく方法が有効です。

たとえば「寂しい」という感情をそのまま歌詞にすると、誰の歌詞にも当てはまる抽象的な一行になりがちです。そうではなく、「寂しさを感じた具体的な場面」を思い出し、そこにあった物や音、光景を書き出してみます。

  • 深夜のコンビニの白い光
  • 誰もいない教室に残ったチョークの粉
  • 電車の窓に映る自分の顔
  • スマートフォンの画面の明るさだけが灯っている部屋

こうした具体的な情景は、直接「寂しい」と言わなくても、聴き手の中に寂しさを想起させる力を持っています。抽象的な感情語を具体的な情景に置き換える作業を、歌詞全体で意識的に行うと、既視感の少ない歌詞になりやすくなります。

言葉が出ないときに試す方法

具体的な情景を思い出そうとしても、何も浮かばないときがあります。そんなときに試せる方法をいくつか紹介します。

1. 制限時間を決めて書き殴る

「5分間、テーマに関係する言葉を思いつくままに書き出す」という時間制限つきの作業をしてみます。文法や韻を気にせず、単語やフレーズを羅列するだけでかまいません。書き出した中から使えそうな言葉を後から拾う、というやり方です。完成度を気にしながら書こうとすると手が止まりやすいため、まず量を出すことを優先します。

2. 五感で書き出してみる

視覚だけでなく、聴覚・嗅覚・触覚・味覚も使ってテーマを描写してみます。「その場面ではどんな音が聞こえていたか」「どんな匂いがしたか」「肌にどんな感触があったか」を書き出すことで、視覚情報だけでは出てこなかった言葉が見つかることがあります。

3. 他人に説明するつもりで話してみる

紙に書く代わりに、友人に曲の内容を口頭で説明するつもりで話してみる、あるいはスマートフォンに向かって話しかけてみる方法もあります。話し言葉で出てきたフレーズの中に、そのまま歌詞に使える自然な言い回しが混ざっていることがよくあります。

4. すでにあるメロディに仮の言葉をはめてみる

意味のある言葉が出てこない場合、まず母音だけ、あるいは適当な言葉でメロディに乗せてみて、リズムと音数を確認する方法もあります。「なんとなくこの音数でこういう響きの言葉が合う」という感覚がつかめてから、意味のある言葉に差し替えていくと、メロディとの噛み合わせがよい歌詞になりやすくなります。

サビから書くか、Aメロから書くか

歌詞を書く順番に決まりはありませんが、迷ったときはサビから書き始める方法をおすすめします。サビは曲の中で最も伝えたいメッセージが凝縮される部分であり、ここが定まっていないと、AメロやBメロで何を積み上げればいいのかが見えてこないためです。

サビの歌詞が固まったら、そこに至るまでの物語をAメロ・Bメロで組み立てていきます。Aメロで状況を提示し、Bメロで心情の変化や転換を挟み、サビで感情を解放する、という流れが基本形のひとつです。この基本形に沿わなくても構いませんが、迷ったときの型として持っておくと、構成に迷ったときの助けになります。

韻を踏むかどうかの考え方

日本語の歌詞では、英語のラップのような厳密な脚韻を踏まなくても違和感なく成立します。ただし、行の最後の音を意識的に揃える、あるいは近い音にすることで、フレーズの気持ちよさが増すことはあります。

韻を踏むこと自体を目的にしてしまうと、伝えたい内容よりも音の響きが優先され、意味が通りにくい歌詞になることがあります。まず伝えたい内容を書き、その上で語順や単語を調整できる範囲で韻を意識する、という順番で考えると、内容と響きのバランスが取りやすくなります。

書き終えた歌詞を見直すときの視点

一通り書き終えたら、時間を置いてから次の視点で見直してみます。

  1. 最初に決めたテーマの一文から外れている部分がないか
  2. 視点(語り手・聞き手・時間軸)が途中でぶれていないか
  3. 同じ言葉や似た表現を繰り返しすぎていないか
  4. 声に出して歌ったときに、メロディと音数が自然に噛み合っているか
  5. 抽象的な感情語だけで終わっている行がないか

書いた直後は自分では気づきにくい部分も多いため、一晩置いてから読み返す、あるいは実際に歌ってみて引っかかる箇所がないかを確認する、という工程を挟むと精度が上がります。

歌詞は何度も書き直していい

一度書いた歌詞に固執せず、メロディや構成の変化に合わせて何度も書き直すことは、歌詞作りにおいてごく普通の作業です。最初に思いついた言葉が最終的な完成形になるとは限りません。テーマと視点さえぶれていなければ、途中で言葉を差し替えても曲の芯は保たれます。

完成した曲は、自分の手元に置いておくだけでなく、人に聴いてもらうことで新しい気づきが得られることも多くあります。マイグルのような楽曲制作者向けのサービスを使えば、作った曲を公開し、感想をもらう場を持つこともできます。書き上げた歌詞がどう届くのかを確かめる場として、活用してみるのもよいでしょう。